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理事長談話=日本顎咬合学会=








 アウトカム(診療の成果に伴う患者の価値)を示すことができなければ専門の名に値しません。そのアウトカムは、医療側ではなく患者側が評価すべきことです。

 患者不在のエビデンス
 専門医に求められるアウトカムとは、患者さんから評価されるということです。私は薬学部を出て大手製薬会社に勤務した経験がありますが、薬を開発する過程では、集積したデータの数値をもとに安全性と有効性を判断します。基準であるフェイズ1からフェイズ4のうち、例えば1万人に販売後の安全性、有効性を確認するフェイズ4は製薬会社にとっては重要な項目の1つで 、なぜなら薬価改定時の判断材料となるからです。最近ではダーゼンが保険から外されましたが、これも本来の有効性に対する評価によるものです。しかし、いま求められているのは、患者さんが効果を実感できる医療か否かということです。
 従来は、治験等を経て何らかの数値が向上したことが医療のエビデンスとされてきました。しかし、そのエビデンスは医療者側が判断したことであって、患者さんが評価したわけではありません。これからは、エビデンスベースをもとに臨床応用し、再現性、普遍性があり、だれが治療しても同じ結果が出るという前提に加え、患者さんが心と体でその効果を実感できることが必要です。高齢者医療で言えば、単に死なないための医療ではなく、生活を維持し、元気になるための医療が求められています。
 検査・診断の結果、病名がついた方にはしかるべき医療を施しますが、未病の方に対して医療者が何をすべきかを考えることがいま必要なのです。

 歯科に求められるアウトカム
 最近は口腔の機能が歯科医師会等で盛んに議論されるようになりましたが、そのアウトカムを国民に示すことが必要です。噛んで食べて生活が維持・向上するようになるという症例を示さなければ理解は得られません。
 日本顎咬合学会では、河原英雄先生らが実際に数多くの症例を積み重ね、学会がそのエビデンスを検証して明らかにしています。咀嚼と咬合を改善した結果、これだけ元気になったという事例こそが本来のアウトカムではないでしょうか。これからの医療は、正しく普遍性のあるエビデンスは十分条件であって、症例を通して国民に示すことが必要条件になると思います。


 専門医制度の抱える課題
 群馬大学病院の例で言えば、高度医療機関として特定機能病院と認定された病院で次々に医療事故がくり返され、専門医に対する信頼を揺るがすことになりました。
 いま、歯科界には多くの学会があり、多くの認定医・専門医制度が存在します。ただし、専門医にかかれば必ず元気になって幸せになるという結果を担保するものと言えるかどうか。医療側が考えている口腔機能と患者さんが求めている口腔機能の間にギャップがなかったかという反省が必要ではないでしょうか。専門医制度を考える上で、医学研究の専門家≠ニ、臨床の専門医≠区別する必要があるように思います。
 国の制度の中では、医療機関の広告として専門医を院外標榜できるかという問題がありますが、専門医自体の認定はそれぞれの学会が独自の基準で定めていることであり、国がその専門性や治療の有効性を保証するものではありません。日本顎咬合学会においても認定医の質的担保を検討し、講演を聞くというような従来の受動的な研修のあり方を見直しています。
 具体的な方法はまだ構想中ですが、症例発表や論文の投稿のような能動的な研修に加え、歯科関係者ではなく一般社会で広く有識者と認められているような方に口頭面接をお願いするようなイメージを持っています。
 面接では、医療人としての人間性と、医療にかける情熱が審査されます。中医協でいえば支払い側や公的な立場の第三者ということになります。いわば国民の代表が、歯科医師としてふさわしいかどうかを見極めることになればと思います。このほか、歯科医師免許を取得した後は更新制度が義務づけられていないことも、見直さなければならない問題と考えています。

 受診率は倍増できる
 歯科は最も国民に身近な医療ですから、生涯にわたって選ばれるドクターになれるかどうかが最も重要だと思います。歯科の受療率はわずか10%足らず。5割以上の方が口の中に違和感があるにもかかわらず、受診するのは15〜16%に過ぎないと言われています。われわれは、会員のクリニックの受診率を3割に引き上げたいと考えています。

 20年後を見据えた努力を
 単に高度な治療技術を高めることだけが医療における専門性ではありません。患者さんから信頼して選ばれることが重要で、歯科医師だけではなく、歯科衛生士においても口腔ケアの技術を指導したその先に、「よく噛めるようになって食欲が出て元気になった。ゴルフのスコアが伸びた」と患者さんから言われて初めて歯科衛生士としての役割を果たしたことになるわけです。
 ここでがん治療と歯科の関係について考えてみましょう。例えば胃がんの治療で胃を摘出したというのは、いわば延命の治療であって胃をとったら元気なったと喜ばれるものとは言えません。その一方で、医科では口腔ケアの重要性に対する認識が急速に進んでいます。特に、術後の在院日数が短縮できるため、病院経営にも非常に有効であることが大きな理由です。従来は不採算部門と言われていた病院歯科の評価も今後大きく変わってくるものと思われます。歯科は患者さんを元気で幸せにするために、最も近いところにいるのだということを、われわれはもっと自覚するべきでしょう。
 予防が保険適用されるようになってきたとは言え、それはまだほんの一部でしかありません。したがって現在の医療保険度制度のもとで、未病の方の健康を維持するために本来必要な処置や指導は、患者さんとの直接契約による自由診療とならざるを得ません。その点からも、患者さんの信頼に値する専門性を備えた歯科医師であるかどうかが問われているのです。
 いまわれわれが行うべきは、ひたすら患者さんの健康維持と向上に尽くすことです。そうすれば、20年後にもう一度歯科が全盛を迎え、社会から尊敬される時代が来ると確信しています。私の世代が進めてきた治療に対する反省も含め、若い世代の歯科医師と国民に貢献できるよう努めていきたいと思います。

2015年8月31日




第35回日本顎咬合学会学術大会・総会












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